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東京地方裁判所 平成4年(ワ)11493号 判決 1998年4月22日

甲事件原告(乙事件被告)

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

中井宗夫

小林美智子

中園繁克

武藤元

甲事件被告(乙事件原告)

社団法人日本国際酪農連盟

右代表者理事

桧垣徳太郎

右訴訟代理人弁護士

小田木毅

石井成一

岡田理樹

竹内淳

主文

一  甲事件原告の請求をいずれも棄却する。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、金一二〇〇万二六四八円及びこれに対する平成四年八月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、甲乙両事件とも甲事件原告(乙事件被告)の負担とする。

四  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件について

1  甲事件原告と甲事件被告との間に雇用関係が存在することを確認する。

2  甲事件被告は、甲事件原告に対し、平成四年五月一七日以降、毎月二〇日限り八九万一四六八円を支払え。

二  乙事件について

主文第二項と同じ。

第二事案の概要(以下、当事者の呼称については、甲事件原告・乙事件被告を「原告」、甲事件被告・乙事件原告を「被告」という。)

甲事件は、被告の職員であった原告が、被告からなされた平成四年四月一六日付け懲戒解雇の意思表示が無効であるとし、原・被告間の雇用関係の存在確認及び被告に対する賃金の支払いを求めた事案であり、乙事件は、被告在職中、原告が被告から金員を取得した行為が不法行為を構成するとし、被告が原告に対し、損害賠償等を求めた事案である。

一  争いのない事実等

後掲の各証拠、当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実関係が認められる。

1  被告は、日本の酪農及び乳業関係者の代表機関として国際酪農連盟に加盟し、国際酪農界の科学、技術及び経済等の諸問題の解決を国際協力の下に推進し、国際的に関係機関と密接な連絡を図り、もって日本の酪農及び乳業の振興に寄与することを目的とし、酪農及び乳業に関する国際規格及び国際標準測定方法の検討審議及び研究調査等の事業を行う社団法人である。

2  被告の会員には、出資会員、団体会員、個人会員の三種類があり、団体会員には明治乳業株式会社、森永乳業株式会社及び雪印乳業株式会社等が存在し、会員数は合計約一七〇名である。(<証拠・人証略>)

3  原告は、昭和五四年二月、被告と雇用契約を締結した。

原告は、昭和五八年八月一二日、被告の事務局長に就任した。原告は、平成二年一二月一〇日、事務局長を解かれて専門職となった。

4  原告が事務局長であった当時、他社からの出向者でない被告固有の事務局職員は、原告を含め三名程度であった。(<人証略>、原告本人尋問の結果)

5  原告は、原告の部下の経理担当職員であった石栗由美子(以下「石栗」という。)等に指示して行わせることにより、被告から、以下のとおりの各出金を行った(以下の各出金を総称し、「本件各出金」という。)。

(一) 原告は、昭和六〇年六月二四日付け出金伝票により、甲野移転経費名下に、被告から二二万九八〇〇円を出金し、取得した(以下、この行為を「移転経費の件」という。)。

(二) 原告は、昭和六一年から平成二年までの間、甲野家賃補助(科目は賃借料)の名目で、被告から総額二七二万四〇〇〇円を出金し、取得した(以下、右各行為を「家賃補助の件」という。)。

(三) 原告は、昭和六二年五月から同年一二月までの間、共済会補助金として、被告から三七万円を出金し、社団法人日本国際酪農連盟共済会(以下「共済会」という。)名義の銀行預金口座に入金した(以下、右各行為を「共済会補助金の件」という。)。

(四) 原告は、山一證券株式会社(以下「山一證券」という。)と、ミリオン(従業員累積投資プラン)累積投資契約を締結し、昭和六二年一一月から平成元年二月までの間、ミリオン受益証券購入代金として総額一四七万円を、被告の銀行口座からの自動引き落としにより山一證券に支払った(以下、右各行為を「受益証券購入の件」という。)。

(五) 原告は、昭和六三年四月から平成三年六月までの間、共済会補助として支出したものの他、伝票上の摘要または科目にかかわらず被告から総額九四〇万一〇〇〇円を出金し、原告名義の銀行預金口座に入金した(以下、右各行為を「共済会補助他各種出金の件」という。)。

なお、原告は、平成三年七月一八日、被告に対し、右の各出金のうち六五万円を返済した。

(六) 原告は、平成二年三月一四日付け出金伝票によって、被告から二〇〇万円を借入れた(以下、右行為を「借入金の件」という。)。

なお、原告は、被告に対し、平成二年一二月までに、右二〇〇万円全額を返済した。

(七) 原告は、平成四年三月一六日、本件各出金のうち一五四万二一五二円を株式会社百十四銀行(以下「百十四銀行」という。)東京支店の被告名義の口座に振り込んだ。(<証拠・人証略>)

6  原告は、本件各出金を行うために作成した会計伝票において、会計処理規程一四条三項及び二四条一項の定める経理責任者の認印及び承認を受けていない。

7  中瀬信三は、平成三年三月当時、被告の副会長で、かつ畜産振興事業団副理事長の立場にあり(中瀬信三を、以下「中瀬副会長」という。)、同月六日から同月一〇日までの間、被告副会長として国際酪農連盟理事会に出席するため、ベルギー国ブラッセルに海外出張し、その際、被告から出張旅費が支給された。

8  原告は、明治乳業株式会社会長の島村靖三、雪印乳業株式会社社長の正野勝也及び森永乳業株式会社監査役の田村辰雄に対し、中瀬副会長に関して左記のとおり記載(以下「本件記載」という。)した平成三年一一月二六日付け書簡(以下「本件書簡」という。)を送付した(以下、この行為を「書簡送付の件」という。)。(<証拠略>)

「 中瀬副会長の事業団退職の理由について

当連盟の副会長でもある畜産振興事業団副理事長中瀬信三氏は、一〇月二一日付をもって同事業団を退職し(財)全国競馬・畜産振興会副会長に転出されましたことはご承知のことと存じます。

中瀬氏が事業団をやめた理由について、私に次の様な情報が入ってきています。

『本年三月七~八日、ベルギー国ブリュッセル市で開催されたIDF役員会に桧垣会長の代理として同会議に出席した中瀬副会長は、畜産振興事業団及び当連盟の両方から出張旅費を受領していたことが、会計検査院の検査で判明したことにより事業団をやめることになったこと及び会計検査院から連絡の入った地検が贈収賄(又は横領)の容疑で、この件に関し裏付けを取る作業に実際に入っていること。』

もしこの情報が事実とすれば、中瀬副会長(収賄)、北川常務理事(贈賄)の処分のみならず桧垣会長の責任問題にも発展しかねません。

確かな筋からの情報ですので、取扱いに苦慮しています。私はまだこの情報について確認をしていません。

つきましては、この件について事実関係の確認を早急にご依頼申し上げたいこと及び事実とすればその対応等についてもご指導をお願い申しあげます。」

9  被告は、平成四年四月一六日、原告に対し、口頭及び同日付け内容証明郵便により、懲戒解雇する旨の意思表示(以下「本件懲戒解雇」という。)をした。

10  被告は、原告に対し、本件各出金のうち、返済のされていない一二〇〇万二六四八円を平成四年八月六日までに支払うよう平成四年七月二三日付け内容証明郵便によって求め、右内容証明郵便は、そのころ原告に到達した。

11  被告には次の規定が存在する(但し、本件に関係する部分のみ抜粋する。)。

(一) 定款(<証拠略>)

(役員の職務権限)

第一三条一項 会長は、この法人を代表し、会務を統轄する。

二項 副会長は、会長を補佐し、会長があらかじめ定めた順序に従い、会長が事故があるときはその職務を代理し、会長が欠けたときは、その職務を行う。

三項 常務理事はこの法人の常務を処理し、会長があらかじめ定めた順序に従い、会長及び副会長にともに事故があるときは、その職務を代理し、会長及び副会長がともに欠けたときはその職務を行う。

(理事会に付議すべき事項)

第二六条 次の各号に掲げる事項は、理事会に付議する。

三号 この法人の運営に関する事項

(二) 就業規則(<証拠略>)

(職員の定義)

第二条 職員とは雇用契約によって賃金を受ける者をいう。

(解職)

第一一条一項 職員が次の一つに該当するときは解職することができる。

二号 職員として本連盟の体面を汚す重大な非行のあったとき。

三号 業務上の諸規定若しくは指示命令に違反し職場の秩序を著しく乱し又は乱そうとしたとき。

(懲戒解職)

第三二条一項 職員が次の各号に該当する行為のあったとき、会長は、懲戒解職することがある。

一号 第一一条の一~三に該当するもので、その情状の特に甚だしい者。

三号 職務に関し、私利を図かり、または関係者から贈賄、その他利益を受けたもの。

(三) 組織規程(<証拠略>)

第一条 社団法人日本国際酪農連盟事務局の組織、所掌事務及び職制は、この規程の定めるところによる。

第二条 事務局の所掌事務は次のとおりとする。

(総務関係)

三号 人事、給与、旅費及び福利厚生に関すること。

七号 事業計画及び収支予算のとりまとめに関すること。

八号 事業報告、決算及び財務諸表のとりまとめに関すること。

九号 収入及び支出に関すること。

一〇号 財産及び資金の管理運用に関すること。

一一号 現金、預金及び有価証券の出納並びに管理に関すること。

第四条 事務局長は会長及び常務理事の命を受けて事務局の事務を総括処理する。

(四) 給与規程(<証拠略>)

(目的)

第一条一項 社団法人日本国際酪農連盟就業規則第二条に定める職員及びその遺族に対する給与は、法令その他別に定めのあるものを除き、この規程により支給する。

(住居手当)

第一一条一項 職員が賃借により、借家及び借間に居住するときは、届出により住居手当を支給する。

二  争点

1  本件懲戒解雇の有効性

2  本件懲戒解雇が無効である場合、原告の被告に対する賃金請求権の内容

3  被告の原告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無及びその金額

三  当事者の主張

1  争点1(本件懲戒解雇の有効性)について

(被告)

原告の行為は、以下のとおり、就業規則の懲戒解職事由に該当するから、本件懲戒解雇は有効である。

(一) 本件各出金は、原告が、被告に何ら支払義務がない事項につき、事務局長の地位にあることを奇貨とし、組織規程及び会計処理規程に定められた所定の手続を無視し、私利を図るために行った不正支出である。原告は、共済会補助金の件及び共済会補助他各種出金の件における被告からの出金が、共済会への支出として行われたと主張するが、被告が共済会に対してこれら補助金の支払義務を負担したことは一切ないのみならず、共済会は、権利能力なき社団としての実体を備えたものではなく、原告への不正出金を正当化するための隠蓑であって、その実体は原告そのものであるから、これらもまた、原告への支出として行われたものである。

(二) 書簡送付の件における本件記載中の「被告副会長でもあり、畜産振興事業団副理事長でもある中瀬信三が両団体から出張旅費を受領していたことが会計検査院の検査で判明した」旨の記載部分は、全く事実無根であり、被告の前事務局長で、なお被告に籍を置く原告が、このように被告副会長が出張旅費を二重取りしたとの虚偽の事実を被告の有力会員である大手乳業三者(ママ)の幹部役員に書簡で告知した行為は、被告の体面を汚す重大な非行である。

(三) 本件各出金は、いずれも原告が職務に関し、私利を図ったものであり、その出金は被告の所定の手続を経ることなく原告が勝手に行ったものであるから、就業規則三二条一項三号及び一一条一項三号に該当し、その情状特に甚だしいので同三二条一項一号に該当する。また書簡送付の件は被告の体面を汚す重大な非行であるので同一一条一項二号に該当し、その情状特に甚だしいので同三二条一項一号に該当する。

(原告)

原告の行為は、以下のとおり就業規則上の懲戒解職事由に該当せず、本件懲戒解雇は解雇権の濫用であって、無効である。

(一) 本件各出金について

(1) 本件各出金は、原告が職務に関して私利を図ったものではない。

すなわち、<1>移転経費の件は、被告では従来から慣行として上司の引っ越しの手伝いを、その部下の職員が行うという慣行が存在していたが、これを避ける趣旨で、職員の引っ越しの際には、引越業者に支払う実費を被告が負担するという取決めがなされ、これに従い、原告がその適用第一号として二二万九八〇〇円を被告から支出してもらったものであり、不法に原告が私利を図ったものではない。<2>家賃補助の件は、住宅手当及び常任委員会において副会長一任の承認を取り付けて有効に成立した内規である財形持家転貸融資内規一三条に基づく利子補給として、適正額を支出したものであり、なんら違法なものではない。<3>共済会補助金の件及び共済会補助他各種出金の件については、職員の福利厚生を目的とする職員の親睦団体として存在していた共済会に対して支出されたものである。共済会補助他各種出金の件において被告から入金された銀行口座は原告名義の口座ではあるが、これは、協和埼玉銀行九段支店に口座を開設するにあたり、銀行担当者から法人格を有していない共済会名義での口座の開設を拒否されたためやむを得ず当時の共済会会長であった原告個人名義にしたものであって、その実質は共済会の口座である。また、その金員の使途は、千代田区勤労福利共済会会費、共済会会員の家賃補助、旅行補助、誕生祝い金といった慶弔費、専門委員会委員長の接待麻雀及び会食、宿泊費という項目もあったが、そのほとんどは原告が昭和五九年一二月に被告の当時の副会長小島和義(以下「小島副会長」という。)から受けた畜産振興事業団から追加出資を引き出すこと、新規団体会員を獲得すること及び専門委員会・専門小委員会を整備し東京年次会議に備えることという業務指示遂行のための接待、会食、旅費等で占めている。これは、接待交際費を公然と支出することができないためにこのような科目(共済会補助金)の流用となっていったものであるが、これらの操作自体は、小島副会長の指示と承認の下になされたものであり、原告が被告の金員を私したものではない。また、被告から共済会への出金は、昭和六一年に被告の当時の常務理事であった北川斐夫(以下「北川常務理事」という。)の承認に基づき開始されたものであり、原告がその職務上の地位を利用して欲しいままに出金したものではない。<4>受益証券購入の件は、共済会の資金運用として行ったものである。購入した受益証券は、昭和六三年一〇月二一日及び平成元年二月二〇日の二度に分けて売却し、その売却代金はいずれも前記協和埼玉銀行九段支店の実質共済会の預金口座である原告名義の口座に入金しているのであって、原告は私利を図っていない。<5>借入金の件は、原告が北川常務理事の承認を得て行ったものである。そもそも、借り入れを禁止した規定は存在しないから、これを北川常務理事の承認のもとに借入れたとしてもなんら違法ではなく、まして、これについては平成二年一二月までに全額返済しており、なんら被告に損害を与えておらず、原告がこれによって不法に私利を図ったということはない。

(2) 本件各出金は、所定の手続を経ずに行ったものではない。

すなわち、被告は、本件各出金が会計処理規程に従って行われていないと主張するが、同規程が原告が事務局長であった時代に被告において実際に適用されていたとは認められず、同規程は単なる私的文書と理解すべきであるから、右規程に従うべき理由はない。また、本件各出金は、全て支出目的が摘要欄に記載されている伝票がそれぞれ作成され、実際に経理を担当していた職員である石栗によって支出されていたものであるから、被告の経理担当者もその内容を認識していたと見るのが妥当であるし、右伝票には経理担当の北川常務理事の印は押捺されていないが、被告の過去数年にわたる支出伝票には一枚も北川常務理事の押印がなされたものはないし、決算時における監査において、毎回適正なものと認めるとの意見が出されていることからして、原告が北川常務理事に無断で行ったという問題はなかったものである。そして、本件各出金は、支出する以前の予算の段階で理事会の中枢によって構成された執行委員会において承認を得、また出金伝票及び決算書について適正であるという報告を得、さらに総会において承認された支出であるから、手続違反はあり得ない。

(二) 書簡送付の件について

(1) 原告は、「被告副会長でもあり、畜産振興事業団副理事長でもある中瀬信三が両団体から出張旅費を受領していたことが会計検査院の検査で判明した」旨の中瀬副会長に関する事実を、いずれも被告の重要会員で、理事等を輩出していた企業であり、被告内部の問題について関与していくべき社会的責任を有している立場にある者に送付したものであって、この行為が被告の体面を汚したことにはならない。

(2) 右の事実は、原告が畜産振興事業団の櫻井直から入手した情報に基づき、諸般の事情と重ね合わせて真実と確信したものであり、また実際その後、中瀬副会長がその任を解かれている事実に徴し、右文書の内容は真実であることが窺われることからすれば、原告のなした行為は公益性を有するといえ、なんら違法ではない。

2  争点2(本件懲戒解雇が無効な場合における原告の被告に対する賃金請求権の内容)について

(原告)

本件懲戒解雇当時における原告の平均賃金額は八八万一四六八円であり、原告は、被告に対し、毎月二〇日限り、右八八万一四六八円の支払いを求める権利がある。

(被告)

原告が、被告に対し、平均賃金額の賃金の支払いを求める権利はない。

3  争点3(被告の原告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無及びその金額)について

(被告)

移転経費の件、家賃補助の件、共済会補助金の件、受益証券購入の件及び共済会補助他各種出金の件による各出金は、被告が何ら支払義務を負うものではなく、原告が被告所定の出金手続を経ることなく、事務局長の地位にあったことを奇貨とし、何の権限もなく勝手に行ったものであり、不法行為を構成する。したがって、被告は、原告に対し、右各出金により被った損害のうち、返済のされていない一二〇〇万二六四八円及びこれに対する各不法行為の後であり、被告が支払いを猶予した弁済期限の平成四年八月六日の翌日である同月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利がある。

(原告)

移転経費の件、家賃補助の件、共済会補助金の件、受益証券購入の件及び共済会補助他各種出金の件による各出金は違法なものではなく、不法行為は成立しない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件懲戒解雇の有効性)について

1  本件各出金について判断する。

(一) 被告における役員の職務権限・組織・所掌事務・職制及び会計処理手続について検討する。

(1) まず、役員の職務権限については前記認定のとおり、定款一三条に定めがあり、副会長は会長を補佐すること(同条二項)及び常務理事は被告の常務を処理すること(同条三項)が規定されている。また、被告の組織・所掌事務及び職制については、前記認定のとおり組織規程に定めがあり、事務局の所掌事務には、収入・支出に関すること、財産及び資産の管理運用に関すること等会計に関する各種の事務が含まれていること(二条)が規定されており、また事務局長は会長及び常務理事の命を受けて事務局の事務を総括処理しなければならないことが規定されている(四条)。

(2) 会計処理手続について検討する。

<1> (証拠略)によれば、会計処理規程は以下のとおり定めていることが認められる(但し、本件に関係する部分のみ抜粋する。)。

(目的)

第一条 この規定は社団法人日本国際酪農連盟の会計処理を適正かつ円滑に行い、真実なる事業成績並びに財政状態を明らかにするとともに、本会の健全なる運営を図ることを目的とする。

(摘要)

第二条 本会の会計処理は、法令、本会規定(寄付行為)及び公益会計基準に基づく、この会計処理規程の定めるところによる。

(経理責任者)

第六条一項 経理責任者は常勤の常務理事とする。ただし、経理責任者に事故あるときは経理責任者が指名する者に職務を代行させることができる。

(経理事務担当者)

第七条 経理事務担当者は経理責任者の指示に従って経理事務を処理するものとする。

(会計伝票)

第一四条一項 会計に関する処理は、すべて会計伝票に依って処理する。

三項 会計伝票は証拠書類(支払先よりの正規の領収書または請求書)によって発行し、経理責任者の認印を受けるものとする。

(金銭の出納)

第二四条一項 金銭の収納及び支払いについては経理事務担当者が、その理由を証憑書類等によりよく調査の上、経理責任者の承認を得た会計伝票に基づいて行い、収納の場合は領収証を発行し、支払いの場合には相手先の受領証の収受を必ず行わなければならない。

二項 一〇万円未満の少額の小払いで定例かつ疑義のないものについては、経理責任者の承認を得た上で実施するものとする。また経理事務担当者の決済金額限度は一〇万円未満、経理責任者の決済金額限度は一〇〇万円未満とする。

<2> (人証略)及び弁論の全趣旨によれば、会計処理規程は、昭和五六年二月頃被告において、当時の事務局長による経理の乱脈性が問題となったことを契機とし、問題の再発を防止するため運営改善委員会を設置して同年四月から同年七月にかけて服務規程とともに整備され、被告において有効に成立した規程であること及び原告が事務局長であった時代に被告において効力を有していたことが認められる。したがって、会計処理規程に従うべき理由がないとする原告の主張は理由がない。

(3) 被告における役員の職務権限・組織・所掌事務・職制及び会計処理手続については、右のとおり、定款、組織規程、会計処理規程によって規定されていたことが認められる。本件証拠上、これらの規定の効力が喪失していたこと、あるいはこれらの規定に反する内容が被告において規範として有効に成立していたことを認めるに足りる証拠はなく、本件証拠中の右認定に反するものは採用しない。

(4) (証拠略)及び(人証略)によれば、原告が事務局長に就任していた昭和五八年八月一二日から平成二年一二月一〇日までの間の被告の経理責任者である常務理事は、原告の右就任当初から昭和六〇年二月二八日までが浜田寛(以下「浜田常務理事」という。)であり、同年七月五日から平成四年二月までが北川常務理事であったことが認められる。

(二) 本件各出金の内容及び出金の正当根拠の有無について検討する。

(1) 移転経費の件について

<1> 前記認定のとおり、原告は、昭和六〇年六月二四日付け出金伝票により、甲野移転経費名下に、被告から二二万九八〇〇円を出金し、取得したものである。

<2> 原告は、右出金の根拠として、上司の引っ越しの手伝いを部下職員が行っていた従来の慣行を避ける趣旨で、職員の引っ越しの際に、引越業者に支払う実費を被告が負担するとの取決めがなされ、これに従って右出金がなされた旨主張し、原告本人尋問における供述中には、右の慣行が存在したとした上、職員が財形貯蓄に基づいて持ち家を持った場合に、一生のうち一度だけ、被告から引越費用を出すことにつき原告が小島副会長に諮って同副会長の承認を得、その上で右出金を行った旨の供述部分が存在する。しかしながら、副会長である右小島が、職員の引越費用を被告が負担することについての承認権限ないし決定権限を有していたことを認めるに足りる証拠はない。また、(人証略)及び弁論の全趣旨によれば、原告が右出金を行う昭和六〇年六月以前、被告において部下職員が上司の引越に動員されるという慣行は存在しなかったと認められることに加え、本件証拠上小島副会長が原告に対して右のような承認を行ったことを裏付けるに足りる証拠が存しないことからすれば、原告本人尋問における右供述部分は直ちに採用できず、原告の右主張は理由がない。

(2) 家賃補助の件について

<1> 前記認定事実並びに(証拠略)及び原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、昭和六一年から平成二年までの間、家賃補助(科目は賃借料)の名目で、以下の伝票により、被告から総額二七二万四〇〇〇円を出金し、取得したことが認められる。

昭和六一年五月二九日付け 合計五四万円

昭和六二年八月五日付け 合計五四万円

昭和六三年七月一三日付け 合計五四万円

平成元年六月二〇日付け 合計五五万二〇〇〇円

平成二年五月一八日付け 合計五五万二〇〇〇円

総額二七二万四〇〇〇円

<2> 原告は、右の各出金の根拠の一つとして、住宅手当としての支出であると主張しており、右の住宅手当とは、給与規程一一条一項の「職員が賃借により、借家及び借間に居住するときは、届出により住居手当を支給する。」との規定を指すと解されるので、原告が右の規定に基づく受給権限を有するか否かを検討する。

まず、原告本人尋問の結果によれば、原告は、右の各出金が行われた昭和六一年から平成二年当時、自宅を所持して同所に居住しており、借家あるいは借間には居住していなかったことが認められるから、文言上給与規程一一条一項に該当しない。

次に、原告本人尋問における供述中には、借家あるいは借間には居住していないにもかかわらず給与規程一一条一項に基づき原告が家賃補助を受けることについて、犬伏副会長及び当時の常務理事の林俊雄から承認を得た旨の供述部分が存するが、犬伏副会長の右承認については、これを否定する趣旨の(証拠略)が存在すること、また、右林の右承認については、(証拠略)によれば、右林が常務理事として被告に在職していたのは昭和四八年二月から昭和五八年三月までであり、昭和六〇年六月六月(ママ)一七日から実施された給与規程は、右林の常務理事在職当時存在しなかったことが認められるので、原告本人尋問における右供述部分は直ちに採用できない。

<3> 原告は、右出金の根拠として、財形持家転貸融資内規一三条の「利子補給」であるとも主張するので、この点について検討する。

財形持家転貸融資内規が被告において成立したか否かにつき検討するに、前記認定事実並びに(証拠・人証略)及び原告本人尋問の結果を総合すれば、財形持家転貸融資内規は、被告が勤労者財産形成促進法九条一項三号に基づき、雇用促進事業団から勤労者財産形成持家転貸融資を受け、被告の職員及び役員に住宅取得資金を融資する場合の取扱いについて定めたものであって、これは被告の運営に関係する内容であるから、定款二六条三号により、理事会付議事項に該当するところ、同内規は理事会の承認を経ていないことが認められる。

原告は、同内規が常任委員会において成立したと主張し、原告本人尋問における供述中には、原告が犬伏副会長に対し、右内規を作成した上で同内規により利子補給を受けたい旨申入れたところ、同副会長が同内規のうち利子補給の部分について常任委員会に諮り、常任委員会でそれが承認されたとの、原告の右主張に概ね沿った内容の供述部分が存在し、(証拠略)及び(人証略)によれば、昭和五七年六月二四日開催の常任委員会の議事の一つに「財形持家転貸融資規程案(内規)について」という議案が含まれていた事実が認められる。しかしながら(証拠略)及び(人証略)によれば、常任委員会は会長の諮問機関であって、そこにおいて決定がなされたとしても、会長及び理事会の承認を受けるのでなければ被告を拘束するものではないと認められる上、同号証及び同証言が原告本人尋問における右供述部分にかかる事実を否定していることからして右供述部分は直ちに採用できないことからすれば、原告の右主張は理由がなく、他に同内規が被告において正式に成立したことを認めるに足りる証拠もない。

そうすると、同内規が被告において成立したとは認められず、同内規が右の各出金の根拠であるとする原告の主張は理由がない。

(3) 共済会補助金の件及び共済会補助他各種出金の件について

<1> 前記認定事実に(証拠略)及び(人証略)を総合すれば、原告は、昭和六二年五月一二日から同年一二月一八日までの間、共済会補助金として、被告から総額三七万円を出金し、いずれも百十四銀行の共済会名義の預金口座に入金させたことが認められる(共済会補助金の件)。

また、前記認定事実、(証拠略)及び(人証略)を総合すれば、原告は、昭和六三年四月から平成三年六月までの間、以下の出金伝票(各伝票の勘定科目欄には、福利厚生費、雑収入(逆伝)、謝金、給与手当、賃借料、役員給与等の記載が、また摘要欄には、共済会補助金、ハンガリー報告文作成、給与等の記載がされている。)によって被告から総額九四〇万一〇〇〇円を出金し、いずれも協和埼玉銀行九段支店の原告名義の口座に入金させたことが認められる(共済会補助他各種出金の件)。<左上の表>

<省略>

<2> 原告は、右の各出金は、いずれも共済会に対して支出されたものであると主張するので、共済会が原告から独立した実体を有する存在か否かについて検討する。

ア 前記認定事実、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、共済会に関連する主要な事実関係として、以下のものが認められる(本件証拠上、左記の認定に反するものは、いずれも信用性に乏しいため採用しない。)。

Ⅰ 原告は、財形貯蓄を含め、低利の融資を受けられる枠が広がることに着目し、昭和五八年八月二六日、名義を社団法人日本国際酪農連盟共済会とし、代表者を原告として、東京労働金庫に加入した。(<証拠略>、原告本人尋問の結果)。

なお、原告本人尋問における供述中には、原告は、労働金庫に共済会として加入することを犬伏副会長に相談し、同副会長からその承認を受けたとの供述部分が存するが、これを否定する趣旨と理解される(証拠略)及び(人証略)が存することから、原告本人尋問における右供述部分は直ちに採用できない。

Ⅱ 原告は、右加入の際、東京労働金庫から共済会規約の提出を求められたことから、昭和五八年八月二〇日を実施日とした「社団法人日本国際酪農連盟共済会規約」(以下「旧規約」という。)を作成した。旧規約二条には、会員の相互扶助によってその福祉を増進し、親和を図るために活動することが共済会の目的であると定められている。

旧規約には、会員は月額一〇〇〇円の共済会会費を支払うこと、会計年度は毎年一月一日から一二月三一日までであること、共済会の運営のために総会で会長及び会計監査各一名の役員を選び、任期は一年とすること、総会は必要に応じて会長が招集し、規定、役員選出、予算決算等の審議を行うこと及び共済会は前記の目的を達するために親睦のための機会作りを行うこと等が定められていたが、旧規約が廃止される平成三年八月五日に至るまで、会費が支払われたことや、会計監査の選出、予算決算の審議、総会の開催がなされたことはなく、旧規約の運用実績は全くなかった。旧規約には、被告職員及びそれに準ずる者が共済会会員であると定めらて(ママ)おり、原告は、共済会補助金の件及び共済会補助他各種出金の件が行われた当時、原告の他、石栗及び菅沼修(以下「菅沼」という。)が存在すると主張するところ、旧規約作成者である原告は平成三年七月ころまで旧規約の存在を失念しており、石栗は昭和六二年四月一日に入社して以来平成三年七月に原告から見せられるまで旧規約が存在することを知らず、昭和六〇年四月一日入社の菅沼も石栗と同じころまで、旧規約が存在することを知らなかった。(<証拠・人証略>、原告本人尋問の結果)

なお、原告本人尋問における供述中には、原告は旧規約を中野さとみ及び柳沢よし子という当時いた三名の共済会会員で相談の上作成したとする供述部分が存するが、真実、原告が右二名と相談し、その合意の上旧規約を制定したのであれば、月額一〇〇〇円の共済会会費の徴収、会計監査の選出及び親睦のための機会作り等、実施する上で特段支障のないと思われる規定については、会員三名中のいずれかの者の申出により、何らかの実施例があって然るべきであると解されるところ、旧規約は右に認定したとおり、実施可能な条項を含めて一度も実施されたことがなく、本件証拠上その実施が試みられた事実も全く窺えないことからすれば、原告本人尋問における右供述部分は直ちに採用できない。

Ⅲ 原告は、百十四銀行東京支店に共済会名義の預金口座を開設した(開設の具体的な日付は本件証拠関係上明か(ママ)ではない。)。右預金通帳は、当初は石栗の前任者及び石栗が管理しており、その間は、原告の友人のために行ったテレックス発受信の実費の入金や、被告の雑収入の入金、原告が行った麻雀の会食費及び宿泊費の出金等のために使用された。右通帳は、昭和六二年秋頃、原告の求めにより、原告の管理に移された。(<人証略>、原告本人尋問の結果)

Ⅳ 北川常務理事が昭和六〇年七月五日被告に着任し、原告はその際同常務理事に旧規約を交付した。(<人証略>)

Ⅴ 原告は、昭和六一年八月二〇日、被告の名前を用いて、共済会の千代田区勤労福利共済会への入会手続をした。(<証拠略>、原告本人尋問の結果)

なお、(証拠略)、原告本人尋問における供述中には、原告は右入会手続をとることにつき北川常務理事及び小島副会長の承諾を受けたとの趣旨の部分が存するが、これを否定する趣旨と理解できる(証拠略)が存在し、右供述を裏付けるに足りる証拠もないことから、右供述部分は直ちに採用できない。

Ⅵ 原告は、昭和六二年五月一二日から同年一二月一八日までの間、共済会補助金として被告から総額三七万円を出金し、いずれも百十四銀行の共済会名義の預金口座に入金させた(共済会補助金の件)。北川常務理事は、被告による共済会への補助金の支給は、旧規約の規定に従い、会員一名につき月額二〇〇〇円の割合による金額であるとの認識を有していた。(<証拠略>、原告本人尋問の結果)

Ⅶ 原告は、昭和六二年一二月末、百十四銀行の共済会名義の預金口座を解約し、昭和六三年一月、協和埼玉銀行九段支店に原告個人名義の銀行口座を開設した(原告本人尋問の結果)。

Ⅷ 原告は、前記(第三、一1(二)(3)<1>)認定のとおり、昭和六三年四月から平成三年六月までの間、被告から総額九四〇万一〇〇〇円を出金し、協和埼玉銀行九段支店の原告名義の口座に入金させた(共済会補助他各種出金の件)。原告がこれらの出金のために伝票上様々な勘定科目を用いた理由は、右出金が被告の福利厚生費の枠内に収まらなかったことから、他の余裕のある科目から支出したためである。(原告本人尋問の結果)

Ⅸ 原告は、菅沼及び石栗に説明の上、支給対象者を共済会会員とし、国内旅行における交通費及び宿泊費の援助を内容とする共済会名義の昭和六三年八月一日付け「旅費援助規定」を作成した。(<証拠・人証略>)

Ⅹ 平成二年一二月一〇日、原告は事務局長を解かれて専門職となり、樋口映男が事務局長に就任した(以下「樋口事務局長」という。)。

ⅩⅠ 平成三年六月二六日、石栗及び菅沼は、いずれも家賃補助として共済会から各一〇万二〇〇〇円の支給を受けた。その他、石栗は誕生祝い金二万円及び旅行補助金八万七四七〇円(旅行補助金は、三万一四七〇円と五万六〇〇〇円の二回にわたり支払われており、後者は海外旅行に対して支払われたものと認められる。)、菅沼は誕生祝い金二万円及び旅行補助金五一一〇円を共済会からそれぞれ受けた。(<証拠・人証略>)

なお、原告本人尋問における供述中には、石栗及び菅沼に対し、その他にも共済会から支払いを行った旨の供述部分が存するが、仮に真実支払いが行われていたとしても、支払金額は、証拠上明らかではない。

ⅩⅡ 樋口事務局長は、平成三年七月一一日、摘要に共済会補助金と記載された同年六月二五日付けの六五万円の伝票(これは、共済会補助他各種出金の件における最後の出金である。)が適正なものか疑問に感じて原告に説明を求め、原告は、樋口事務局長に対し共済会の説明を行った後、同年七月一八日、右六五万円を被告に返還した。(<証拠・人証略>、原告本人尋問の結果)

ⅩⅢ 原告は、平成三年七月一九日、百十四銀行東京支店に「社団法人日本国際酪農連盟共済会 会長甲野太郎」名義の普通預金口座を開設した。(<証拠略>)

ⅩⅣ 平成三年八月五日、第一回共済会総会が原告、石栗及び菅沼出席の上開催された。同総会において、旧規約は、運用実績が全くなく機能を果たして来なかったこと等を理由に、昭和六〇年四月一日に遡って廃止することが決議され、実施日を平成三年八月五日とする「社団法人日本国際酪農連盟共済会規約」が承認された。(<証拠略>、原告本人尋問の結果)

ⅩⅤ 平成三年八月七日、共済会の第二回総会が開催され、北川常務理事の要請を受けて共済会の活動を一時凍結することが決議された。また原告は会長辞任の意を表明し、会長不在の形となった。そして、平成四年三月一三日に開催された第三回総会において、共済会の解散決議がなされた。(<証拠略>)

ⅩⅥ 本件訴訟段階において、被告には、共済会や旧規約を承認した記録が存在せず、石栗は、共済会の行っていた具体的活動内容を知らず共済会は実体がないと捉えており、また、犬伏副会長(就任期間は昭和五六年四月から昭和五九年一一月)、浜田常務理事(就任期間は昭和五八年四月から昭和六〇年二月)、正野副会長(就任期間は昭和六〇年七月五日から平成元年二月二三日)、湯山副会長(平成三年二月から副会長就任)は、共済会の存在やその活動内容を知らなかった。(<証拠・人証略>)

イ 以上の認定事実に基づき、共済会補助金の件及び共済会補助他各種出金の件が行われた当時、共済会が原告から独立した実体のある存在であったか否かを検討する。

右に認定したとおり、旧規約は、昭和五八年八月の制定から平成三年八月五日に廃止されるまでの八年間、全く活用されたことがない上、共済会会員全員がその存在すら認識していなかったのであるから、共済会の活動基礎となる規範であったとは認められない。また、第一回総会が開かれた平成三年八月五日より以前に、共済会総会と認めるべき会合が開かれた事実は、本件証拠上認められない。さらに、旧規約の制定、原告の共済会会長就任、共済会の東京労働金庫加入及び千代田区勤労福利共済会入会、被告からの補助金受給の開始、銀行の預金口座の開設及び解約といった共済会活動上重要な行為について、総会決議を経ておらず、原告が共済会会員に相談した事実も本件証拠上窺われないこと等に徴すれば、これらは全て原告の一存で決定され、その意のままに実施されてきたことが推認され、これらの事項及びこれら以外の事項の決定の際、共済会において団体の意思決定方法としての多数決原理が働いていた事実は認められない(なお、旅費援助規定作成の際、原告は石栗及び菅沼に説明しているが、<人証略>によれば、原告は右両名に一応形式的に話を持ちかけたものであり、原告の一存に等しい形で決定されたことが認められるから、この折りに多数決が行われたとは認められない。)。そして、百十四銀行東京支店の共済会名義の預金口座は、原告の友人からのテレックス発受信の実費の入金等原告の個人的な用途と認められる目的で使用されていたこと、共済会補助他各種出金の件により多額の入金を受けた協和埼玉銀行九段支店の預金通帳は原告名義で開設されていること、右の共済会関係の二通の銀行預金通帳は昭和六二年秋以降はいずれも原告が管理していると認められること、共済会関係財産の入出金の決定の際、原告以外の共済会会員の意思が働いた事実が本件証拠上認められないこと及び共済会では決算がなされておらず、監督機関も存在しないことからすれば、原告と共済会との財産関係が分離されていたとは認められない。加えて共済会会員とされる石栗は共済会は実体がないとの認識を有している等原告以外の共済会会員とされる者の組織の一員であるとの自覚が希薄であると認められることや、被告に共済会や共済会規約を承認した記録が被告に存在せず共済会が被告から認められた団体とはいえないこと、犬伏副会長、浜田常務理事、正野副会長、湯山副会長といった被告の幹部役員が共済会の存在を認識していないことからすれば、共済会が団体としての組織を有していたとは認められない。

以上からすれば、共済会は、権利能力なき社団としての実体を備えていたとは認められず、またそれ以外の実体ある組織であったとも認められない。そして、このように、共済会が実体を有する存在とは認められないことに加え、以上の認定事実に徴し、共済会が原告の思いのまま活用されていたと認められることからすれば、共済会は、原告から独立した存在ではないと理解される。なお本件において、石栗及び菅沼に対し、共済会から誕生祝い金等の支払いが行われた事実は存するが、右両名に支払われたことが認められる金員の額及びその支払回数が、後記(第三、一1(二)(3)<3>)認定のとおりの原告の場合と比較して格段に少ないことや、右両名への右支払は、原告が共済会の実体の存在を装うために行った行為に過ぎないとも理解し得ないではないことからすれば、右両名への支払いの事実が、前記認定を覆す理由にはならないと考える。

<3> 共済会補助金の件及び共済会補助他各種出金の件の各出金により利益を受けた主体について検討する。

まず、共済会補助金の件において、原告は、被告の金を百十四銀行東京支店の共済会名義の預金口座に入金しているところ、共済会が実体がなく原告から独立した存在でないことからすれば、原告は、共済会名義を利用しつつ、自己の預金とする意思をもって右の入金をしたことが認められるから、右預金の預金者は原告と認められる。そして、被告から出金し、これらを右預金口座に入金することにより、原告が預金債権を取得したことが認められる。

次に、共済会補助他各種出金の件において、原告は、被告の金を協和埼玉銀行九段支店の原告名義の預金口座に入金しているところ、原告は、自己の預金とする意思をもって右の預金口座に入金したことが認められるから、右預金の預金者は原告と認められる。そして、被告から出金し、これらを右預金口座への(ママ)入金することにより、原告が預金債権を取得したことが認められる。

<4> 共済会補助金の件及び共済会補助他各種出金の件における各出金根拠の有無について検討する。

ア 原告は、そのほとんどは原告が昭和五九年一二月に小島副会長から受けた畜産振興事業団から追加出資を引き出すこと、新規団体会員を獲得すること及び専門委員会・専門小委員会を整備し東京年次会議に備えることという業務指示遂行のための接待、会食、旅費等で占めており、接待交際費を公然と支出することができないためにこのような科目(共済会補助金)の流用となっていったものであるが、これらの操作自体は、小島副会長の指示と承認の下になされたものであり、被告から共済会への出金につき北川常務理事の承認を得たと主張し、(証拠略)及び原告本人尋問における供述中には、右主張に沿った部分が存在する。

しかしながら、まず、原告の主張する小島副会長の指示及び承認については、同副会長に公然と支出することができないような不正な接待交際費を支出することや、科目流用操作をすることについて指示したり、承認を行う権限が存したとは認められない。そして、(人証略)及び弁論の全趣旨によれば、被告の業務遂行上必要な接待、会食、旅行等の費用については、予算の中で公費から支出することができたこと、予算が不足した場合は、毎年行われる予算編成のときに増額が可能であったこと及び原告は業務遂行上支出した旅費や会食費等の費用については、被告の正規の手続きに従って精算していたことが認められ、他方、(証拠略)及び原告本人尋問における右供述部分は、合理的な理由がないのに原告本人尋問におけるそれまでの供述内容及び(証拠略)の陳述書の内容を変更したものであることや、特段の裏付資料もないことからして、直ちに採用することができない。また、原告の主張する北川常務理事の共済会への出金についての承認については、(証拠略)によれば、同常務理事が被告から共済会に対して行う出金として認容していたのは、旧規約に基づく会員一名につき月額二〇〇〇円の割合による補助に過ぎなかったことが認められ、これと性質も金額も全く異なる共済会補助金の件及び共済会補助他各種出金の件にかかる出金につき、同常務理事の承認があったことを内容とする原告本人尋問における右供述部分は直ちに採用できない。

イ 右の各出金の使途として原告がその他に主張する点について検討すると、まず、千代田区勤労福利共済会会費につき、被告の承認があったとは認められず、その会費を被告から出金する根拠は認められない。また、共済会会員の家賃補助、旅行補助、誕生祝い金といった慶弔費及び専門委員会委員長の接待麻雀及び会食、宿泊費については、これらを被告から出金しうる根拠が明らかでなく、これらを原告の銀行預金口座に入金する理由も認められない。

(4) 受益証券購入の件について

<1> 前記認定事実に(証拠・人証略)及び原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、被告の名を用いて山一證券との間において、被告の従業員がミリオン(従業員累積投資プラン)累積投資契約に基づく累積投資商品を購入するにあたり、被告が当該従業員の給与等から天引した金銭を従業員に代わって、ミリオン受益証券の購入代金として山一証券に払い込むことを内容とする契約を締結し、原告がミリオン(従業員累積投資プラン)累積投資契約に基づき購入したミリオン受益証券購入代金総額一四七万円を、昭和六二年一一月から平成元年二月までの間に被告の銀行預金口座から定額自動引き落としをすることにより山一證券に支払い、被告においては、摘要欄に「清掃費」等と記載した伝票を作成して精算していたことが認められる。

<2> 原告が、被告の名義を用いて右のような契約を締結し、また原告自身が購入したミリオン受益証券の購入代金を被告に負担させうる根拠は、本件証拠上認められない。(証拠略)及び原告本人尋問の結果には、原告がこれらの行為を小島副会長の承認を受けて行ったとする部分が存するが、これを裏付けるに足りる証拠がなく直ちに採用できない。

(5) 借入金の件について

<1> 前記認定のとおり、原告は、平成二年三月一四日付け出金伝票によって、被告から二〇〇万円を借入れたことが認められる。

<2> 原告は、北川常務理事の承認を得て、借入れたものであると主張するが、北川常務理事が単独で職員の二〇〇万円の借入を承認する権限を有する根拠が認められない。(証拠略)には、北川常務理事が右の承認をしたとの記載部分があるが、これを裏付ける証拠がなく、直ちに採用できない。

(6) 本件各出金につき被告から支出する根拠が認められないのは以上のとおりであり、その他に本件各出金の正当根拠となりうる理由は主張上も証拠上も認められない。

(三) 本件各出金は、いずれも被告から出金する根拠が認められず、会計処理手続上も、会計処理規程一四条三項、二四条一項の規定に違反し、経理責任者である常務理事の認印及び承認を受けずに行われた不正支出である。

原告は、予算及び支出が執行委員会や総会において承認されていることから、手続違反はあり得ない旨主張するが、(証拠・人証略)、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張する「執行委員会」とは理事会の前に行われる打ち合わせ会を指すこと、及び予算及び支出は従前右理事会前の打ち合わせ会及び総会等において問題とされず、承認されてきたものの、これは単に本件各出金が不正であることが発覚せずに見過ごされてきただけであったことがそれぞれ認められるから、理事会前の打ち合わせ会及び総会等における承認が本件各出金を正当化する理由とはなりえない。他に本件各出金を正当と認めるに足りる理由は、主張上も証拠上も認められない。

(四) 本件各出金が、就業規則一一条一項三号、三二条一項一号、三二条一項三号に該当するか否か順次検討する。

(1) 本件各出金は、いずれも被告の規定に基づかない根拠のない出金で、会計処理規程一四条三項、二四条一項所定の手続に違反し、組織規程四条、会計処理規程六条一項、二四条二項の規定を無視して行われたものである。本件各出金は、昭和六〇年から平成三年までの六年間、被告から原告に合計一六一九万四八〇〇円が支出されたものであるところ、原告がかように長期間にわたり、多額の不正支出を行い得た理由としては、職員の福利更(ママ)生団体としてどこにでもありがちで、名前が表面化しても不信の念を抱かれにくい共済会という名称を付した実体のないものを介在させて出金を行ったことの他、科目を流用した伝票を多く用いていたために、一見しただけでは不正が判明しにくかったこと、監事による会計監査の際、原告は自ら監事やその補助者に説明を行ったり、部下職員の石栗に監事から質問された際における答弁の仕方を指導し、そのとおり答えさせることによって、不正が判明するのを逃れていたこと(以上の事実については、<証拠・人証略>により認められる。)が挙げられるのであり、以上の本件各出金における出金額、出金期間、出金の態様等に徴すれば、原告による本件各出金の違法性は強度であると認められる。そして、本件各出金によって被告の会計秩序及び職場全体の秩序が著しく乱されたことは明らかである。

以上からすれば、原告の行為は就業規則一一条一項三号、三二条一項一号に該当することが認められる。

(2) 前記認定事実に(人証略)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件各出金は、共済会補助他各種出金の件のうち、最後に行われ元平成三年六月二五日付けの伝票による六五万円の出金を除き、いずれも原告が、事務局長としての立場を利用し、部下職員の石栗等に指示して行ったものであることが認められ、また平成三年六月二五日付け伝票による六五万円の出金は、原告が事務局長ではないが、上司の立場にあることを利用して部下職員の石栗に指示して行ったものであることが認められる。以上からすれば、本件各出金はいずれも就業規則三二条一項三号の「職務に関し」行われたものであることが認められる。

また、本件各出金は、いずれも就業規則三二条一項三号にいう「私利を図かり」行われたものであることが認められる。すなわち、移転経費の件及び家賃補助の件は、その内容からして当然に原告が私利を図ったものであることが認められる。共済会補助金の件及び共済会補助他各種出金の件は、これらの利益を受けた主体が原告であること、右各出金の根拠すなわち原告がこれらを受給する根拠が存しないことは前記認定のとおりであるから、原告に私利を図る意思が存しなかったことを窺わせるに足りる事情の認められない以上、原告に私利を図る意思が存したと認められる。受益証券購入の件につき、原告は共済会の資金運用として行ったものであるから私利を図って行ったものでない旨主張するが、右の主張は、共済会が、実体がなく原告から独立した存在ではないことからして理由がない。また、原告が購入した受益証券の代金を被告から引き落として山一證券に支払った以上、原告において私利を図る意思が存したことが認められるのであって、その後、受益証券を売却等し、売却代金を協和埼玉銀行九段支店の原告名義の口座に入金しても、私利を図る意思の存否に影響しない。借入金の件は、融資を受けること自体が、受ける者にとって利益となるといえるから、原告には私利を図る意思が存したことが認められるのであり、原告が後に右借入金を返済したとしても、私利を図る意思の存在が否定されることにはならない。

以上からすれば、原告の行為は就業規則三二条一項三号に該当することが認められる。

2  書簡送付の件について判断する。

(一) 本件記載中の「被告副会長でもあり、畜産振興事業団副理事長でもある中瀬信三が両団体から出張旅費を受領していたことが会計検査院の検査で判明した」旨の記載部分の真実性について検討する。

(1) 先ず、平成三年三月六日から同月一〇日にかけてのベルギー国ブラッセルへの海外出張の際、中瀬副会長が、出張旅費を二重取得していたことが会計検査院の検査で判明した事実が存するか否かについて検討すると、(証拠・人証略)によれば、会計検査院が畜産振興事業団に対し、平成三年五月ころ、同年一月から三月の役員出張命令簿を提出するよう求めたこと及び同年八月末の定期会計検査に際し、外国出張に関わる台帳の提出を求めたことが認められるが、それ以上に、会計検査院の検査により中瀬副会長が出張旅費の二重取得をしていたことが判明した事実は本件証拠上認められない。

(2) 次に、中瀬副会長による出張旅費の二重取得の事実が存するか否かにつき検討すると、(証拠略)及び原告本人尋問の結果によれば、原告の告発にかかる中瀬副会長の旅費二重取得の件が検察官から不起訴処分とされたのに対して行われた原告の審査申立てに対する東京第二検察審査会作成の議決通知書の検察官裁定罪名欄に「横領」との記載がなされていることが認められ、また、(証拠略)によれば、中瀬副会長が、平成三年一〇月に畜産振興事業団副理事長を、また平成四年二月に被告副会長をそれぞれ解かれた事実が認められるが、これらをもって中瀬副会長による出張旅費の二重取得の事実を認めるには足りず、他に、右事実を認めるに足りる証拠はない。なお、本件においては、畜産振興事業団は中瀬副会長に出張旅費を支給していないとの内容の同事業団作成の回答書(<証拠略>)及び備考欄に旅費は被告が全額負担する旨の記載のある同事業団作成の旅行命令簿(<証拠略>)が存在し、これらからすれば、中瀬副会長は出張旅費を二重に取得していないことが窺われる。

(3) したがって、本件記載中の「被告副会長でもあり、畜産振興事業団副理事長でもある中瀬信三が両団体から出張旅費を受領していたことが会計検査院の検査で判明した」旨の記載部分は、真実であるとは認められない。

(二) 原告が中瀬副会長による出張旅費二重取得の事実が存するとの疑いを持ったことについての合理性の有無につき検討する。

原告が中瀬副会長が出張旅費の二重取得をしていることを疑った理由につき、原告本人尋問における供述中には、原告が畜産振興事業団理事の櫻井直から情報を得た旨の供述部分があるが、右櫻井は、畜産振興事業団において中瀬副会長の出張に際しての旅費負担につき知りうる立場にはなく、同副会長の出張旅費の二重取得について原告に話をしたことはないとの内容の(証拠略)が存することからすれば、原告本人尋問における右供述部分は直ちに採用できない。また、他に右疑いを持つことが合理的であることを認めるに足りる証拠はない。

(三) 中瀬副会長が出張旅費の二重取得をしたとの事実を、本件書簡を明治乳業株式会社会長島村靖三、雪印乳業株式会社社長正野勝也及び森永乳業株式会社監査役田村辰雄にそれぞれ送付することにより告知した原告の行為が、被告の体面を汚すものであるか否かを検討する。

原告が本件書簡を送付した相手方は、いずれも被告の団体会員の幹部役員で被告にとって重要な人物である。また本件記載は、伝聞の形がとられているが、読み手にとっては、中瀬副会長による出張旅費の二重取得の事実があたかも存在し、しかもその事実が公的機関である会計検査院において確認されたの如き印象を与える内容となっており、中瀬副会長の名誉を傷つけるものでもある。思うに、原告は、昭和五八年八月から平成二年一二月まで七年間の長期間にわたり被告の事務局長という要職にあって、これまで多くの国際会議に出席する等数々の重要な仕事に携わってきており(右の事実は、<証拠略>及び原告本人尋問の結果により認められる。)、本件書簡を送付した当時は事務局長の地位にはないものの、被告に在籍していたものである。したがって、本件書簡送付先を含む被告関係者が、原告を、被告において重要な立場にある者であるとの認識を有していたであろうことは容易に推認されるところである。そして、そのような原告が、真実とは認められないのに真実であるかのような印象を与え、中瀬副会長の名誉を傷つける内容の本件書簡を、重要会社の幹部役員三名に送付したことは、社会(ママ)法人である被告の体面を汚す行為であると解される。

(四) 本件書簡の送付が行われた経緯及び右送付の合理性の有無等につき検討する。

(証拠略)、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成三年四月、中瀬副会長の出張旅費の二重取得の事実について会計検査院に調査を求めたこと及び同年七月、東京地方検察庁特捜部に右の事実について調査を依頼したことがそれぞれ認められ、(証拠略)によれば、会計検査院は、同年八月末に畜産振興事業団に対して外国出張に係わる台帳の提出を求めた後まもなく中瀬副会長の出張旅費二重取得の事実はないとの確認をしたことが認められる。本件書簡の送付は、その後の平成三年一一月になされたものであるが、中瀬副会長の旅費の二重取得の事実の有無につき、原告はこのようにすでに強力な公的機関に調査依頼をしていたのみならず、その調査内容や調査結果に納得がいかず、さらに事実確認を行いたいと考えたのであれば、畜産振興事業団の監査室に確認を取るという、効果的であり、かつ被告の体面を汚したり、中瀬副会長の名誉を毀損する等の実害を生じるおそれが少ない方法を取り得たのであり(右の方法が可能であることは<人証略>により認められる。)、前記乳業三者(ママ)の幹部役員に右事実関係の確認を依頼すべき合理性や必要性が存したとは解されない。

(五) 以上からすれば、原告による本件書簡送付行為は、被告の体面を汚す重大な非行であり、その情状が特に甚だしいといえる。そして、本件記載は真実であるとは認められず、また原告が中瀬副会長の出張旅費二重取得を疑ったことにつき合理性が存するとも認められないのであって、本件書簡送付行為につき原告を懲戒処分に付することを不相当とすべき何らの理由も認められない。そうすると、原告が本件書簡を送付した行為は、就業規則一一条一項二号、三二条一項一号に該当すると認められる。

3  以上のとおり、本件各出金は就業規則一一条一項三号、三二条一項一号、三二条一項三号に、本件書簡の送付は同一一条一項二号、三二条一項一号にそれぞれ該当するので、本件懲戒解雇は有効であると認められる。

二  争点2(本件懲戒解雇が無効である場合、原告の被告に対する賃金請求権の内容)について

右に認定したとおり、本件懲戒解雇は有効であり、原・被告間の雇用契約関係は、平成四年四月一六日をもって終了しているから、争点2については判断する必要がない。

三  争点3(被告の原告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の有無及びその金額)について

移転経費の件、家賃補助の件、共済会補助金の件、受益証券購入の件及び共済会補助他各種出金の件による各出金は、いずれも根拠なく、所定の手続に従わずに行われた違法な行為であり、不法行為を構成する。被告は、これらの不法行為によって合計一四一九万四八〇〇円の損害を被ったことが認められるので、被告が原告に対し、右損害から既に支払いのなされた二一九万二一五二円を控除した残額である一二〇〇万二六四八円及びこれに対する右各不法行為の後であり、被告が支払いを猶予した最終期限の翌日である平成四年八月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めた被告の請求は理由がある。

四  結論

以上のとおりであるから、原告の被告に対する請求(甲事件)はいずれも理由がないから棄却し、被告の原告に対する請求(乙事件)は理由があるから認容することとする。

(裁判長裁判官 合田智子 裁判官三浦隆志は差し支えにつき、同井上正範は転補につき、いずれも署名できない。裁判長裁判官 合田智子)

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